やさいスープのかいじん
オネットの街でひときわ(私にとって)印象的なのは、パン屋にいるこの女性の発言です。
「私、「野菜スープの怪人」の話を…しようと思ったんだけど。
ゲームに関係あると思われると困るんでやめとくわ。
そういう余計なことをあんまり話してると
大事な話を聞かないくせがついちゃうでしょ。
でもね、ほんとにいろんな人とこまめに話をすることが大事よ。
同じ人でも状況によって話すことがかわるんだから。」
実際にこの人に何度も話しかけると、
「あんたやっぱりもう一回話し掛けてくれたわね。
…と、いうぐあいにこまめに話すことが大事なのよ。」
「そうそう!そんなふうにこまめにね。」
と、セリフが変わります。そのように時期によって変化するセリフを探すのもゲームの楽しみ方のひとつですから(セリフではないけどホテルの新聞はその代表例だでしょう)、それを知らせてくれるという点である意味重要人物かもしれません。
さて「やさいスープのかいじん」ですが、後にフォーサイドで「デパートのかいじん」が敵として登場するため、いかにもどこかで登場しそうに思われますが、セリフで言われているとおり、ゲームに関係無いようです(そんなこと言われたら関係あると思うわ)。
じゃあ一体「やさいスープのかいじん」とはいったい何なのか。
こちらのサイトに詳しく書いてありますが、どうやら立石和氏という実在の人物のことだそうです。立石氏は1990年代前半に、野菜スープでがんが99%治ると喧伝していたそうですが、そのあまりの誇大広告ぶりを、週刊文春が「野菜スープの怪人」と名付けて批判したそうです。立石氏は最終的に1994年に医師法、薬事法違反の疑いで逮捕されたそうです。
立石流野菜スープ&玄米茶の恐るべし効能とレシピ | 強健ラボ
「やさいスープのかいじん」に元ネタがあるならば、逆に「デパートのかいじん」こそ一体何なんだという感じがしませんか。どうでしょうか。
スカラビのヘビつかい
スカラビのバザールでへびを売っているこの人は、なかなか印象に残っているのではないでしょうか。なにせわきげのエサですから。
これは糸井重里のユーモアのなせるセリフかと思っていましたが、これにも元ネタがあると知ったのは、元ネタであるショパン猪狩氏の死についてある人が触れたツイートを見たためでした。亡くなったのは2005年のことだそうですが、僕がそのツイートを見たのは去年か一昨年のことでした。
http://www.zakzak.co.jp/gei/2005_11/g2005112606.html
「レッドスネーク、カモン!」と呼び掛けるヘビの芸で人気を集めた東京コミックショウのショパン猪狩さん=本名・猪狩誠二郎(いがり・せいじろう)が今月13日午前0時17分、心不全のため東京都目黒区の病院で死去していたことが25日、分かった。76歳だった。葬儀・告別式は近親者で済ませた。
動画を見てみれば、確かにターバンを巻いているし、1:30あたりでわきげをエサにしています。きっとスカラビという街を作った時に、冗談で入れたのでしょう。
ショージ・モッチーと「素晴らしい穴」
8月3日に前橋に行くんだけど、赤城山の(埋蔵金発掘同窓生)望月建設(望月昭治)会長にも会えるかもしれない。
— 糸井 重里 (@itoi_shigesato) 2016年8月1日
「MOTHER2」の大事な登場人物「ショージ・モッチー」氏と。現在は、渋川市の市会議員をしておられるですぞ。 pic.twitter.com/iudRHZuyZO
— 糸井 重里 (@itoi_shigesato) 2016年8月4日
ショージ・モッチーといえば、ドコドコ砂漠で掘り当てたダイヤをネスにくれる人です。
この穴はすげぇよ。いい穴だ。
もともと人に頼まれてここで埋蔵金を掘り出したんだけど…
途中から意地になってさ。なんとか見つけたいんだいね。
はらへったなー。なんか食い物をわけてくんないかな?
少し奇妙な命名だと思っていたけれど、まさか実在の人物がモデルだったとは。
こちらの記事によれば、糸井重里とショージ・モッチーこと望月昭治氏は、1990年代にテレビ番組の企画で、赤城山の徳川埋蔵金を発掘していたそうです。
結局途中で発掘場所の根拠となった資料がデマであることが分かってしまったものの、既に6回も調査をして大穴を掘っていた糸井重里は引き返すに引き返せず、結局ヤケクソになりながら7回目の調査を行ったそうです。
「素晴らしい穴」は糸井重里が番組で残した名言だそうですが、それは多少形を変えてショージ・モッチーのセリフに反映されています。
かいりきベア
かいりきベアはツーソンからグレートフルデッドの谷を越えたハッピーハッピー村のさらに奥のリリパットステップで出現する敵です。
グレートフルデッドの谷は、明らかにアメリカのバンド「グレイトフル・デッド」(grateful dead)に由来していますが、このバンドはしばしばクマのモチーフを使うそうです。
ほとんど推測でモノを言うようで恐縮ですが、このクマとかいりきベアは、何らかの関係があるのではないでしょうか。まあクマなんて絵にしたら大体似たり寄ったりになるものな気もしますが。
気ままな兄さんとグレイハンドバス
MOTHER2の舞台がアメリカをモデルとしていることはプレイすれば明らかなように、作品の世界観には現代アメリカの文化が様々に反映されています。オネットではネスと友達がツリーハウスを隠れ家にしていますし(といってもこれが本当にアメリカの文化なのかといわれると、「スタンドバイミー」でしか見たことないですけど)、ネスの武器はバットです。
気ままな兄さんとの戦闘BGMは、そのおよそPRGらしからぬ音楽が非常に印象的です。MOTHER1でも使用されています。
EarthBound - New Age Retro Hippie
教科書のようなロックンロールです。ロックンロールは私個人の印象ではベースラインやコード進行などかなり形式的な音楽なので、この曲は特定の曲をモチーフにしているのではないのかと思っていました。しいて言えばチャック・ベリーの何かなんだろうなぐらいに思っていました。
しかし先日、アマゾンのプライムミュージックでチャック・ベリーを流していたら、気ままな兄さん戦と同じイントロが聞こえてきました。
Chuck Berry - Run Rudolph Run (1958)
次はツーソンからフォーサイドまでを走るグレイハンドバスの音楽です(トンズラブラザーズのではない)。
EarthBound (Mother 2) - City Bus Ride
バス自体アメリカの長距離バスであるグレイハウンドバスをモチーフにしていることが名前からも明らかですが、この音楽は、デル・シャノンのRunawayという曲のイントロ部分と似ていると思います。気ままな兄さんのと比べると、確信の度合いは弱いです。
このブログについて
MOTHER2というゲームは発売から20年以上が経っても色褪せることのない名作であり、今後も何らかの形で遊ばれていくだろうし、少なくとも語り継がれていくと思います。
MOTHER2の面白さのひとつは、作中のあらゆるところに存在する、細かくて豊かな小ネタです。すでに様々なウェブサイトで、MOTHER2の小ネタおよびその元ネタについては言及・まとめが行われていますが、見たところまだまだ指摘されていないネタがたくさんあります。例えばBGMに関する話はこれまであまり言及されていないように思います。本ブログは、既に言及されているものも含めて、私が探究したMOTHER2の小ネタの元ネタを紹介することを目的としています。
作中の小ネタは、元ネタが分からなくても十分に面白いです。およそRPGらしからぬネタ自体の面白さと糸井重里のユーモアが卓越しているためです。中には初プレイから10年以上経ってひょんなことから元ネタを知り、「あれはパロディだったのか」と気づくものもあるほど、ネタが自然に潜んでいます。なんなら元ネタを知っていたからといって面白さが増すようなものでは無いかもしれません。
しかし、無数にあった小ネタにそれぞれちゃんと元ネタがあるかもしれないとなれば、それを探りたくなるのがファンの心理です。きままなにいさん戦の音楽は単にロックンロールを模しているのではなく、特定の曲のオマージュであるかもしれないとなれば、それをついつい探したくなるのです。
また、発売から既に20年以上が経過しており、元ネタを探す上で資料や情報の風化が心配でもあります。オネットのパン屋にいたおばさんが言及した「やさいスープのかいじん」とはいったい何だったのか。創作でないとすれば明らかに時事的なネタであって、時事ネタを21世紀に入ってからどのように追跡すればよいのでしょうか。今でもすでに十分風化している感はありますが、この作業は今のうちに行うほうが吉だと思います。ただし、この点はむしろインターネットのある現代のほうが、1990年代に元ネタを探すよりも楽かもしれません。実際、「野菜スープの怪人」を検索すると、案外簡単に元ネタを知ることができました。
次からは、具体的なネタを検討していきたいと思います。